UNIVERS 序

役割合

男性:女性:不問

1:1:1


台詞量割合

エネロ♂:ミィ♀:テンシ

6:2:2


諸注意

〇〇「」→台詞

〇〇M「」→モノローグ


男性

エネロ・ラスターチカ

15~18歳程度の精神年齢

気弱でマイナス思考、過去に犯した罪により不老不死になってしまった。

台詞6割


女性

ミィ・チャーイカ

13~16歳程度

頭のネジがぶっ飛んでる。コッペパンが好き。

台詞2割


不問

テンシ

15~18歳程度のイメージ

突如エネロの前に現れた、彼と瓜二つの男。神と名乗っているが、ちょっと違うらしい。

台詞2割




エネロM「 夜も、朝も、僕をおいていく。欠かさず捧げていた祈りも、あの頃に置き去りにして。皆の名前が、声が、姿が…思い出すらも、全てバラバラになって、もう元には戻らない。読み飽きた本と、回らなくした時計、適度な食事と、睡眠と、清潔…数えることをやめた償いの日数。それでも、お墓の前で手を合わせることだけはやめなくて。皆の名前を掘りこんだ石の前で、手を合わせて、何度も文字を確認しながら、口を動かす」


エネロ 「ごめんなさい」


エネロM 「それだけが重なっていく。積もって、積もって、堕ちていき、土に潜り込んでいく。後には何一つとして残らない。掘り返しても、出てくるのは骸だけ。どんなに謝っても、誰も怒りも許しもしない。泣き叫んでも、感情が溢れて何がなんだかわからなくなって、笑い出してしまったとしても。土は土のまま。墓標は墓標のまま。屍は帰ってきはしない」


―SE:風の音―


エネロ 「…ごちそうさま」


―SE:食器の鳴動―


エネロM 「いつからか、三人分のご飯を用意するのをやめた。獲物を最小限に留め、適当な煮込み料理だけを食べるようになった。桶で水を汲んで、ボウルとスプーンを洗い流す」


エネロ 「…あ、薪…足しておかなくちゃ」


エネロM「 バラバラの薪を取り合えず山積みに、と。肌寒い。マフラーしっかりしないと…あ、あった。薪…って、風で散らばってる…」


エネロ 「…?」

―SE:トラツグミの声(鳥の鳴き声)―


エネロM「 …鳥、かな。たぶん、鳥。きっと、鳥。まさか、魔物…?」


エネロ 「…もう、寝よう」


エネロM 「何も聞かなかったことにしよう。薪は、もう置いて…。死ねない体だとしても、痛いものは痛いんだ。魔物や、ワイルドハントにいたぶられるなんて、嫌だ……死ねるのなら、かまわないんだけど」


 ―SE:風の音と家鳴り―転換ー


エネロM 「風が巻き始めた…家鳴りが酷い。時おり何かを壁に叩きつける音すらしてる、あ…きっと、薪だ。窓ガラス…割れたらどうしよう。刺さると痛いんだよなぁ…」


エネロ 「よいしょ…っと」


エネロM 「ベッドを反対の壁際に寄せとこう、あと、カーテンに開けた穴に無理に矢を通して…鍵に……これで、まぁ破片は平気だ…。揺れに耐えかねて、全部崩れない限り」


エネロ 「……一匹……二匹…三…ひ…き……」


エネロM「 寝ようとすればするほどに、眠れない。だとしても、この階段を踏み外したかのような浮遊感が…」

(間)

エネロM「長い。嘘だ、長い。こんなの、最早落下だ。眠る間際なのに意識が鮮明で…あり得ない。落下の合間、うわっ、ちょ…眩しい。何だ、今の光…明るい靄まで……あ、夢かな。いや、でも…なんだろう、気持が悪い。こんなの初めてだ。こんなに、長く生きているのに」


エネロ 「わ、っ……あ、帰ってきた…良かった。水でも飲もう…は?」


―SE:風の音―


エネロM「 居間がない。見覚えの無い平原が広がってる。ベッドに似合わないな…」


エネロ 「え?」


エネロM 「青空の上、似たような円形の島が、足跡みたいにぽつぽつと…」


エネロ 「……い、いひゃい」


エネロM「 頬を抓っても目が覚めない。僕のベッドが、見知らぬ島の真ん中に鎮座している」


エネロ 「…ぇ、ええぇっ?!」


エネロM「 そこら中に雲まである…ふわふわして…あ、指の間から…逃げた。岸壁の先は確かに空があって…でも、島の群れ以外何もない。わからない。なんだろう、ここ。森から浮き島に突然移動しちゃうなんてこと、あり得ないし……幻覚?」


テンシ 「……ェ……ネ、ロ」


エネロ 「…へ?」


テンシ 「エ……ネ…ロ」


エネロM 「人の声?エネロ…エ、ネ、ロと途切れがちに…エネロって。あ、僕の名前だ…どうして? 誰が、僕の名前を知ってるの?」


テンシ 「エネロ」


エネロM「 はっきり聞こえる。男の子の声だ…雲がほどけて、暗い雲になって…か、風が逆巻いてる…このままじゃ危ない?!草が擦れる音が…ッ、心臓がばくばくする。体が、跳ねる。嫌だ。この感覚、なんか…あのときみたいだ」


テンシ 「エ、ネ…ロ」


エネロ 「…誰、どうして…僕の名前…」


テンシ 「エネロ」


エネロ 「だから…!……だ、誰…です、か…っ」


エネロM 「黒い、雲の影に呼ばれている。暗雲が風に乗って、螺旋を描いて目の前で縮こまって…雲が姿を変えていく」


エネロ 「ヒッ…」

―SE:閃光―

エネロM「黄色い光が目を射抜いた、ッ…頭痛?!…痛いッ…落ちないように、とりあえず広場の中心で、踞って…何がどうなってるの?わからない、僕が何をしたんだよ…あぁ…まさか…これが、あのときの償い?……変なところに飛ばされて、変な天候に脅かされて、変な頭痛に悩まされて…目の前の雲が、人の形になって…こっち…来るのがっ…僕が、皆を殺した、ことの償い?」


テンシ「ラスター…チカ」


エネロ 「来ない、で…嫌だッ」


エネロM 「この感覚は、アレが来る。飲まれる、あの嫌な黒霧(こくむ)に。全部、全部飲み込んで、何もかもをなくしてしまうまで…止まらなくなる。嫌だ、やめて…来ないで!!このままじゃ僕は、この雲を、殺しちゃう!!」


テンシ 「エネロ、ラスターチカ」


エネロ 「ッ…グ、ア"アア"ア"アアッ!!!」


―SE:地鳴り―


エネロM「影が、嗤った確りと、僕を見て。頭痛が収まっていく。黒霧が延びていって、草も土も、岸壁も…全てを崩していく音がする」


エネロ 「離れて!!早く…早く、離れて!!!」


エネロM「全てを塗りつぶしていく。黒が、目の前にいる影だけを残して…苦しい、苦しいのに、体が楽になっていく。僕の叫び声が、残響が…風の音より大きくなって……」


エネロ「僕は、僕は…もう…誰も殺したくないッ!!」


エネロM「そう叫んだ瞬間、全ての音が止まる。黒霧が、忽ちに消え去って、さっきと変わらない穏やかな景色に、僕と人影が残った」


テンシ 「…はい、落ち着こうね」


エネロ 「ィ……ァ"…ぇ?」


テンシ 「こんにちは、エネロ君」


エネロM「人影は、僕の顔を見て"僕の顔"で笑った」


エネロ 「だ、ぇ…僕?!」


テンシ 「エネロ君だよね…初めまして、死神サン」


エネロ 「死神…っ?」


テンシ 「話、聞いてくれるかな?」


エネロ 「ぇ、あの…待って!…本当に、待って、どういうこと…?君は?…ここは?黒い、霧は?それに、何で…僕そっくり…?!」


テンシ 「全部に答える時間は、あんまり無いかもなぁ……」


エネロM 「困ったように笑う僕の顔を、僕は初めて見た。本当に、水面に映る僕の顔だ。髪の毛と目の色が黒いことと、変な服と、鳥の羽が生えてることだけ除けば、僕にそっくり。いや、それ最早僕じゃ無いんじゃ…いいや、それでも、顔は、本当にそっくりなんだ」


テンシ 「エネロ君、初めまして、ほらまずは挨拶しないとネ」


エネロ 「は、初め…まして……あ、あの、その、怪我は?」


テンシ 「無いよ?だって僕、神様だし」


エネロ 「神様…あぁ……神様?!」


テンシ 「うん、神様…正確にはちょっぴり違うけどネ」


エネロM 「踞る僕に目線を合わせて、僕…じゃなくて神様はにっこり笑った。僕、こうやって笑うんだ」


テンシ 「600年近くも、よく一人で耐えたね」


エネロ 「…ろっぴゃく、ねん?」


テンシ 「…君がだしちゃうあの黒い霧で、村にいた人間どころか、森の木々でさえ鏖殺(みなごろし)にしたあの日から、君はおおよそ600年の時を…僕のかけた”加護”によって、一人過ごしたんだよ」


エネロ 「みなごろし…600年…」


テンシ 「こんなに頑張ったならもういいだろうって、思ったんだ。赦してあげる」


エネロ「赦してあげる?って、どういうこと…?」


テンシ 「君に…死ぬチャンスをあげるよ」


エネロ 「死ぬチャンス?!…僕が?!」


テンシ 「うん、あの森も昔の姿をほとんど取り戻したしネ…君のお陰でさ」


エネロ 「あ…木…だけは、頑張って育てました」


テンシ 「…村の人達はヌエのせいで帰ってこれないけどね」


エネロ 「ヌエの、せいって…?」


ヌエ 「あはは…そこからか」


―SE:指パッチン→ボンッ―


エネロM「 神様が指を弾くと、軽快な音と共に後ろに椅子が降ってきた。座って、と促されて軽く腰かける。なんか少し歪んでるけど…申し分ない」


テンシ 「ヌエは、知ってるよね?」


エネロ 「ヌエ…え?えっと、大昔に、空から生まれた化け物で…死んだ人の魂を寄せ集める存在でしたっけ。あれ?もう、とっくに勇者のおかげで居なくなったんじゃ…」


テンシ 「うん、君が生まれる随分前に勇者達の手で地下の亜空間に幽閉されたからね。まぁ、その、幽閉だからさ。まだいるんだよ、アレは」


エネロ 「え…?」


テンシ「しかも超元気」


エネロ「えぇ?!」


テンシ「ご健在だよ」


エネロ「ご、ご健在…じゃあ!!もしかして、僕が…僕が殺してしまった村の人達の魂も、寄せ集めてるまま、幽閉されてるってこと?」


テンシ 「そうそう、まぁ、そんな感じ」


エネロM 「飲み込みがいいと笑う僕の声は、椅子に座るのに飽きたみたいで…なんだかわからないけど羽を使って生身のままそこら中を飛び回る」


テンシ 「君に、お願いがある。それが最後の贖罪だ」


エネロ 「おねがい?」


テンシ 「うん、ヌエを殺してほしい」


エネロ 「…はい?」


テンシ 「君なら殺せる。その力があれば…滅ぼせる。封印するだけじゃダメだったアレを」


エネロ 「…力?」


テンシ 「君の黒い霧はね、生き物の命の源であるマナを奪い尽くす力なんだ」


エネロ 「なっ…はい?!」


テンシ 「そう。世界中を探しても、君にしかない希有なアビリティだよ」


エネロM「僕にしかない…?!」


テンシ 「それでヌエを殺してほしい、縛り付けられている魂達を解放してほしい。死霊全てを、この世界の輪廻に還してあげてほしいんだ」


エネロ 「…待って、あの、話が大きすぎて」


テンシ 「君が600年あの森に閉じ籠っていた合間に世界は様相を変えた。時が経つにつれて、ヌエの元に引き込まれた死霊達は亜空間に収まりきらなくなった。地上の至るところに噴出しては悪さをするようになっていてね……エネロ君はワイルドハントに会ったこと、あるでしょう。アレはね、そうやって生まれた物なんだ」


エネロ 「……!」


エネロM 「嫌な記憶だ。家族で、ご飯を食べていた時…だった気がする。そこに現れて…二人を……それが嫌で、矢をつがえて、でも間に合わなくて。結局、それが怖くて、死にたくなくて…僕は…自分の知らない力で…生きたいと、死にたくないと願ったばかりに全てを殺した」」


テンシ 「ワイルドハント。ヌエの元にいながらにして生き返りたい、やり直したい、そんな悔恨や願いを糧に現世に足をかけて一時的に戻ってきてしまう存在…そこいら中の生き物や道具に取り憑いて悪さをする…最近はそれの被害が悪化していてネ」


エネロ 「なる…ほど…」


テンシ 「ヌエを滅ぼして死霊を解放するしかないんだ…じり貧なんだ。ワイルドハントに殺された生物の魂はヌエのところに行く、被害が拡大する…新たなワイルドハントが生まれる…アレは全てを殺すまで止まらない」


エネロ 「……」


テンシ 「でも、君は死なないね?」


エネロ 「は、はい…」


テンシ 「何があっても、死なない」


エネロ 「はい…」


テンシ 「僕が、君が犯した罪を購えるようにと、不老不死にしたために。死ねない」


エネロ 「はい……」


テンシ 「ヌエを…殺して、死霊を助けてあげて…そうしたら」


エネロM 「宙に浮いていた僕は、突然近寄ってきて鼻が当たるほどの距離で」


テンシ 「君が世界を救ってくれるなら、その悠久の命を、僕のこの手で、確りと終わらせてあげよう。手ずから君を殺してあげる」


エネロM 「僕の声で、そう言った」


エネロ 「……本当に?」


テンシ 「モチロン」


エネロ 「……やるだけは、やります」


テンシ 「ナイッス~っ!!!その返答、待ってたよ!!」


エネロ 「は、はぇ…?」


テンシ 「エネロ君は内気だからさぁ…なんか、えぇ…僕なんか…とか言い出すかなぁって思ったんだけど。そっか、やってくれるんだね…」


エネロ 「…はい」


エネロM 「なんか、小バカにされてる気がする」


テンシ 「じゃあやり方を説明しよう……と、思ったんだけど…朝焼けか。もう時間がない」


エネロ 「時間…?」


テンシ 「僕はまだ、夢の世界にしか出てこれないんだ……ごめんね、ヌエの力を押さえつけていけばもっと話せる時間は増える……」


エネロ 「いや!せめて!どうするのかは教えてください?!」


テンシ 「…君の家に…来る…女の子の…話を……聞いて…っ」


エネロ 「お、女の子?!…待って、ぁぁあなんか透けてる…?!」


テンシ 「力が…っ……少女の話を…聞いて、彼女も…君と同じ…目標…だから…っ」


エネロ 「か、神様っ!ちょっまって…!」


テンシ 「ごめん…っ」


エネロM 「途端に世界が弾けた。全てが黒く塗りつぶされて。瞼の裏の景色が帰ってきてしまう」


エネロ 「……ッは………家…だ…っしょっと」


エネロM「 ……夢だったのかな。にしては、ヤケに…リアルだし。本当に、救うのだろうか。世界を。そうしたら死ねる?……それなら、やってやる。僕の償いが、終わる。彼の、神の願いを果たしさえすれば、救いさえできれば、僕はやっとこの命を捨てられるんだから」


エネロ 「……え、えっと…」

エネロM「 僕、変だ。お茶でも飲んじゃおうかな、なんて気分になっている。食器棚の片隅に寄せられた、湿気ったお茶ッ葉をお湯で暖める、たしか…そう。これ、網にいれて、お湯に落ちないようにして…味だけとりだすんだ……ヌエを倒すのか。っていうか、倒す?できるのかな、そんなこと。でも、そうしたら…弓と矢の準備はきちんとしておこう。マフラーも絶対に持って行かなきゃ。鍋の湯をチラチラ見ながらの、旅支度」


エネロ 「…っと、あ…矢尻…どうしよう。もうぼろぼろだ」


エネロM 「外に売ってるかな。きっと…あっ、お金!!…貯金箱…貯金箱…あった…5000ラルク少々…いや、まって600年も経ってるなら…このお金使えない可能性が…」


ーSE:激しいノックー


エネロ 「…~ッ!!?」


エネロM 「か、風…?扉がドンドンと揺れている。一定の、リズムで」


ミィ 「すみませぇええええんっ!エネロ!ラスターチカさんの!お家ですか!!誰かいませんかぁああああっ!私、ミィ・チャーイカっていいます!一緒に!世界を救いにきました!!」


エネロ 「人だ…お、女の子だ……ま、まさか…神様が言ってたのって…!」


ミィ 「…アレ?誰もいないのかなぁ…」


エネロ 「……」


エネロM「だ、だめだ。体が動かない…怖い、生身の人がいる?!それだけで身が縮こまった、わからない。なんで…っ、いやでも…でないと、このまま帰っちゃったらそれこそもっと大変だ。何て言って出るのが正解? どちらさまですか? はじめまして? なんですか? そうです、僕がエネロです? どれ…?」


ミィ 「…むー?……ぁ、この壁……ちょっと脆いな」


エネロ 「…壁?」


―SE:とんとん―


ミィ 「んー!これならイケる!」


エネロ 「いけ、る?」


ミィ 「中に誰もいませんかーっ」


エネロ 「へ…?」


ミィ 「いませんねーっ!いっきまーすっ!」


―SE:レールガン―


ミィ 「気流干渉、あじてーとっ!風よ、はばたけっ…!!」


エネロM 「嫌な予感がする。離れなくちゃ、一体全体何をする気なんだ…?!」


ミィ 「ノーマジッ!キューーマッ!!!」


エネロ 「わっ、わああぁぁあぁああああっ?!」


ーSE:崩落ー


エネロM「声も束の間、壁が弾け飛ぶ。木の板がそこいら中に散らばって、体が反対の窓の下に叩きつけられた。棚から本が崩れ落ちて僕に降り注ぐ。痛い!!」


ミィ 「っせーぃ……ぁぇ?人…」


エネロ 「ったたた……おもっ…ぁ…ちょっ…」


ミィ 「わぁぁぁあああごめんなさいいいい!!!」


エネロM 「冷たい鉄が僕の上の本をバサバサとどけていく。ちょっと待って、本当に…打ち付けられて腰が…」


ミィ 「い、いるなら返事してよぉおおっ!」


エネロ 「…す、すみません……っ」


ミィ「怪我してないっ?大丈夫?…もぉおおお…」


エネロM 「何で僕が怒られてるの…?」


エネロ 「大丈夫です…っ…」


ミィ 「うぅ…ごめんなさい…」


エネロ 「…ぇ、ぁ…いえ…」


エネロM 「最後の本が投げられると、金髪でピンク色の目をした女の子が、かがみこんで、眉をさげて僕を見つめていた」


ミィ 「立てる…?」


エネロ 「ぁ、はい…」


ミィ 「…っしょ…っと」


エネロM 「ものすごい力で引っ張られる。身長は、僕より小さくて…重そうな全身に鉄の鎧を着込んでいる。背負われた大きな斧が、この子の獲物らしい」


ミィ 「…初めまして!ミィ、チャーイカ…です」


エネロ 「え、えと、え、えねろ、え、エネロ…ラス、ターチカ…です」


ミィ 「…何で返事してくれなかったの!」


エネロ 「だ、だって…そんな…突然…」


ミィ 「うぅ…むうぅ…」


エネロ 「す、すみません」


ミィ 「いいよぅ…ドッカンしちゃった私がわるいもん」


エネロ 「ど、どっかん…」


エネロM 「不思議な子だ。なんていうか、表情がぐるぐる変わる。あちこちを見回しては、落ち着きがないし。なにか、そんなに変かな…」


エネロ 「あの、チャーイカ、さん」


ミィ 「ひゃぃ!」


エネロ 「…その、えと…一緒に…行ってくれる…の?」


ミィ 「うん!!もちろん!そのためにここまで来たんだもんっ!」


エネロ 「や、やり方…とか、わかります?」


ミィ 「ヌエの倒し方?」


エネロ 「そ、そうです」


ミィ 「わかるよー!教えてもらったし、後で教えてもらえる!」


エネロ 「そ、そう…」


エネロM「 神様、この子には説明したんだ」


ミィ 「じゃあ早速行こーっ!!」


エネロ 「ふぁ、え?!待って!!流石に準備が…」


ミィ 「あ、そっか」


エネロ 「…少し、だけ、お願いします」


ミィ 「はーいっ…ぁ、お腹すいてない?」


エネロ 「お、お腹?」


ミィ 「旅に出る前にはしっかりご飯たべないと!」


エネロ 「あ…はぁ…」


エネロM 「そうすると、彼女は腰の辺りにある鞄をモソモソたいじりだして、にひーっと声付きで笑った。なん、え?なにが出てくるの…。食べ物かな…?」


ミィ 「それでは問題です!」


エネロ 「問題?!」


ミィ 「パンはパンでもぉ…!」


エネロ 「ぱ、ぱんは、ぱんでも…?」


ミィ 「食べられないパンはぁ…!」


エネロ 「た、食べられないの?!」


ミィ 「こっぺぱーんっ!」


エネロ 「こっ、こっぺぱ…ん?」


ミィ 「はい、コッペパンあげるー」


エネロ 「こっぺぱん…?」


ミィ 「“え?!コッペパン知らないの?!」


エネロM 「ピンクの目がこれでもかと広がる。し、知らない…なにこの、いい匂いがする。ふかふかの…食べ物?食べれるよね、これ」


ミィ 「コッペパンは美味しいパン!」


エネロ 「ぱん…?」


ミィ 「はい、食べて!」


エネロ 「た、食べるの…?」


ミィ 「もぐもぐしてっ!」


エネロM 「口に突っ込まれる。金髪がふさふさと揺れて、どうよ、どうよ、と感想を求められる。口に入ってるんだから、喋れないんだってばっ!窒息する前に、かみ砕く。ふぇ、何これ…。美味しい。確りと飲み込んで、またもう一口食べる。美味しいっ!!!すごい!!」


ミィ 「…にひひーっ…気に入った?」


エネロ 「ん、ん…んま…!」


ミィ 「良かった~!いっぱいあるから、いっぱいたべていいよぉ!」


エネロ 「…っ?!」


エネロM 「バッグに入ってるコッペパンの山にビックリする。すごい、この子、大好きなんだ!」


ミィ 「にへへ…ぉ?なんか、グツグツ音がしてる」


エネロ 「…んっぐ…あっそうだ、お茶…!」


ミィ 「あー!お茶沸かしてたんだ、わかった!淹れてくる!」


エネロM「 熱い鍋をそのまま籠手でつかんで、カップに茶を注いだ。それも二人分……君も飲むんだね」


ミィ 「エネロ~っ!この隣のはー?」


エネロ 「…そ。それは、スープ…ウサギの」


ミィ 「ウサギさん?……美味しいの?」


エネロ 「…うん」


ミィ 「じゃあこれも飲んじゃおう!しばらくお家帰れないしね!!」


エネロ 「は、はい」


エネロM 「彼女は小さく呪文を唱えて、コンロに火をつけて寸胴を乗せた。外には火の魔法…そんなのあるんだ」


ミィ 「ふふーんっ…いいにおーい!」


エネロ 「そ、そう?」


ミィ 「うん!……ふへ、ここで食べよっかー」


エネロM 「埃と木の屑まみれの食卓を手で払って、お茶を置く。気がつけば僕も、出来上がるのを待っていた。不思議な人だ。気づけば、なんか流れに飲まれていた。あ…コッペパンが、無くなっちゃった」


ミィ 「っしょー!できた!器借りるねー!」


エネロ 「は、はい」


ミィ 「よっとっと…おっしょっ……」


エネロ 「あ、平気…?」


ミィ 「このくらいへっちゃら、まだまだ重いもの持てるよーっ!」


エネロM「彼女はスープを持ってきて僕の向かい側に座る、久々の…他人とのご飯。斧をおけばもっとやりやすいんじゃないかとか言えなかった」


ミィ 「はい、それじゃあ!」


エネロ 「はい?!」


ミィ 「いただきます!!」


エネロ 「い、ぇ…いただき、ます」


ミィ 「ほい、追加!」


エネロM 「テーブルに二つのコッペパンが載せられる。不思議な感覚、人との、ご飯」


ミィ 「準備終わったら、パパっと行っちゃおうね」


エネロ 「は、はい…あの…やり方は…」


ミィ 「ん?…んー、そこはご飯の後で説明するよぉ…」


エネロ 「は、はぁ…」


ミィ 「美味しいねぇこのスープ!!」


エネロ 「あ、ありがとう…」


ミィ 「コッペパンにあうね!」


エネロ 「あ、あは…は…」


エネロM 「すごい早さで互いのスープとコッペパンが消えていく、僕も僕だけど、よく食べるなこの子」


ミィ 「エネロはさ、ここに一人ですんでるの?」


エネロ 「う、え、はい…」


ミィ 「へー…そっか!」


エネロ 「はは…は……チャーイカさんは、ここまで、その、一人できたの?」


ミィ 「うん!」


エネロ 「よ…よく来れたね」


ミィ 「二日くらい迷った!」


エネロM「 結構迷ってる。そんなに広くないのに…」


エネロ 「…これて、良かった…うん」


ミィ 「にへー…へへー……あっ!そーだ!」


エネロ 「な、なんです!?」


ミィ 「これからずーっと…ってわけじゃないけど、二人四脚!二人で頑張るんだからさ!名前で呼びあおー?」


エネロ 「え、えと?」


ミィ 「だって、チャーイカさんチャーイカさんって、長いじゃん。私だってラスターチカさん、ラスターチカさんって危ないときとか呼んでられないもん」


エネロ 「あ、あ…はぁ…」


ミィ 「ミィ!ミィって呼んで!」


エネロ 「み、ミィさん…」


ミィ 「ミィ!」


エネロ 「み、ミィ…ちゃん」


ミィ 「ミ!イ!」


エネロM「顔が迫る、あの口の端にコッペパンの欠片が…とか、いえない」


エネロ 「ミィ…」


ミィ 「エネロ!」


エネロ 「み、ミィ」


ミィ 「えーねろっ!」


エネロ 「よ、よろしく…おねがい、します」


ミィ 「不束ものですが!よろしくお願いしまーすっ!」


エネロ 「ふ、ふつつ、ふつつか…よ、よろしく」


エネロM 「…大丈夫なのかなぁ……。ベッドの横の風穴から、昨日よりも暖かい風が吹き込んできた」



次の話は今週中に

Coord:Dimension--No.000*CASCADES*

次元座標 観測ナンバー000【カスクェイド】 観測者:咎持ちのハラバイ 管理プログラム:Unveil BAllad Koooky Unit 非言語化領域コンヴェーション 反実在領域OPデバイス

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